“人間へのユーモアある眼差しと適切な距離感を大事にしたい”:映画『海辺へ行く道』横浜聡子監督インタビュー
- 42 分前
- 読了時間: 12分
シカゴで唯一のアジア映画祭、「第20回アジアン・ポップアップ・シネマ」(3月20日~4月12日)では9作品の日本映画が上映され、うち4作品では、日本から監督を招いたトークセッションが予定されている。そのひとつ、3月22日にアメリカで初上映される『海辺へ行く道』(英語タイトル:Seaside Serendipity)を監督インタビューを交えて紹介しよう。

3月22日(日曜日) 午後2:30より(開場:2:00PM)
横浜聡子監督の登壇によるトークライブがあります!
上映映画館: AMC EVANSTON 12
『海辺へ行く道』(英語タイトル『Seaside Serendipity』)
原作:三好銀『海辺へ行く道』シリーズ(ビームコミックス/KADOKAWA刊)
監督・脚本:横浜聡子
出演:原田琥之佑 麻生久美子 高良健吾 唐田えりか 剛力彩芽 菅原小春
蒼井旬 中須翔真 山﨑七海 新津ちせ 諏訪敦彦 村上淳 宮藤官九郎 坂井真紀
Xアカウント→ @umibeeikumichi
公式サイト→https://umibe-movie.jp/
知る人ぞ知る孤高の天才漫画家・三好銀の最高傑作と名高い「海辺へ行く道」シリーズの初映画化で、アーティスト移住支援をうたう美しい海辺の街(ロケ地は小豆島)を舞台に描いた、やさしさとユーモアにあふれた注目作。
監督・脚本は『ジャーマン+雨』『ウルトラミラクルラブストーリー』『俳優 亀岡拓次』『いとみち』で話題を席巻した、横浜聡子。”シュールな笑い”や”一筋縄ではいかないユーモア”という横浜ワールドが炸裂する。2025年2月の「第75回ベルリン国際映画祭」では子どもや青少年を対象とした「ジェネレーション Kplus」部門に正式招待され、同部門において、審査員からスペシャルメンション(特別表彰)を授与されるなど、国際映画祭でも高い評価を受けている。

● あらすじ
アーティスト移住支援をうたう、とある海辺の街。のんきに暮らす14歳の美術部員・奏介とその仲間たちは、夏休みにも関わらず演劇部に依頼された絵を描いたり新聞部の取材を手伝ったりと毎日忙しい。街には、何やらあやしげな“アーティスト”たちがあちこちに住んでいる。のびのびと生きる子供たちと秘密ばかりの大人たちが交差する道の先には、光を浴びて乱反射する海がまばゆいほどに広がっている。目の前の出来事に縦横無尽に挑む子供たち。“正解”を探して試行錯誤を繰り返す大人たち。分断の時代に、すべての登場人物が愛おしく、優しさとユーモアに満ちた、ちょっとおかしな人生讃歌! (『海辺へ行く道』オフィシャルサイトより引用
● APUC主催者の選評
”非常にのんびりとした作品の遊び心あふれるアプローチ、若い主人公たちの自然な演技、そして本作で創造・展示される多様なアートの世界に惹き込まれた。”
― Sophia Wong Boccio
『海辺へ行く道』:横浜聡子監督インタビュー

― 今回の「アジアン・ポップアップ・シネマ」がアメリカプレミアとなります。この映画祭出品のオファーをお聞きになった時の感想をお聞かせください。
『海辺へ行く道』はジャンル映画でもなく、また主役の子どもの成長譚(成長物語)というわけでもなく、わかりやすいテーマを掲げていない、邦画の中でも異質な作品です。じっくり観ることで初めてどんな映画かわかる作品なので、まずこの映画が醸し出す独特な匂いを映画祭のかたが嗅ぎ取って下さったことがとても嬉しかったです。緊迫した世界情勢の中、映画を通じて海の向こうの方々とコミュニケーションできたように思えて希望を感じました。
― これまでにも「第75回ベルリン国際映画祭」でのワールドプレミア上映をはじめ、カナダ「TIFF Next Wave Film Festival」、インドなどでも上映されましたが、国外での反響はいかがでしたか? また国外ならではの面白いエピソードなどがあれば教えてください。
ベルリン国際映画祭ではジェネレーション部門という、子どもを主題とする映画の部門に選出され、客席には子どもの姿もありました。Q&Aで映画の中の鮮やかな色味についての子どもの鋭い見解があり、テーマとか意味とか頭で考えることではなく、実際に目にみえるものに素直に反応できる子どもならではの感覚が新鮮でした。香港や台北の映画祭では映画ファンの若い観客が多く、上映後も熱心に感想を伝えてくれて、邦画への強い愛を感じましたし、数ある邦画の中でも異色の作品だと言ってくれた方がいて嬉しかったです。
劇中で、音がない中、大勢が一斉に踊る『静か踊り』というシュールなエピソードがありますが、ベルリンで「私も音楽がなくてもいつも踊っている。私の中にいつも音楽が流れているから」と感想を伝えてくれたかっこいい女性がいて、ずっと心に残っています。海外の方はシャイな日本人と違ってちょっとしたシーンでも大きな声で笑ってくれるので幸せでした。
© 2025 映画「海辺へ行く道」製作委員会
誰しもがアーティストになれる
― 根底にある「アートとは何か?」という普遍的なテーマは、国外ではどのように受け止められていましたか?
誰しもがアーティストになれるんだというメッセージを受け取ったという感想がありました。アートは決して特別なものじゃないんだというような。そういえば昔、パリの美術館にいったときに、幼稚園くらいの小さい子どもたちが団体で来ていて、先生がマティスの絵画の解説を子どもたちにしているのを見て驚きました。日本では絶対見られない光景なので。感覚的なことですが、海外のかたのほうがアートとの距離が近いように感じました。
― 公開後の日本での反響はいかがでしたか?
ただ純粋に楽しくものづくりをしている子どもたちと、何かを喪失してしまった自分を受け入れそんな己と折り合いをつけながら生きている大人たちの対比についての感想が多かったです。またカナリア笛をめぐるシーンについては見た人によって解釈がさまざまで、一つのシーンで無数の解釈が生まれたことに喜びを感じました。

― 監督は原作者の三好銀さんのファンとうかがいました。本作の映画化の経緯について教えてください。
2009年に、三好さんの短編をモチーフにした自主映画を作ったのですが、それがきっかけで、三好さんに初めてお会いする機会を得ました。その後『海辺へ行く道』の連載が始まり、また三好さんの漫画を映像化したいと思いましたが、ファンタジー性が強く一筋縄じゃいかない作品だとずっと悶々としていました。何年か経ちプロデューサーから偶然、この原作の映画化の話を持ちかけられ、二つ返事でぜひやりたいですと答えました。
― 大好きな劇画の世界を映像化するうえで大切にしたことや、苦労したことを教えてください。
三好さんの絵は独特で、現実の風景が三好銀というフィルターを通して再構築されています。あるがままの現実が映ってしまう映画というメディアで、あの漫画の世界を描くのは難しいと思っていました。なのでまずは人間に焦点をあてました。漫画では、日常にある小さな悲劇と喜劇が、切り離されたものではなく常に同居しながら移ろっていきます。人物に寄り添いすぎるわけでもなく、かといって冷たすぎるわけでもない。人間へのユーモアある眼差しと適切な距離感を、映画でも大事にしたいと思いました。ただロケ場所選びは、漫画にあるように不思議な人工物が何気なく見える場所を、意識的にみんなで探しました。

― 脚本も手掛けていらっしゃいますが、原作(劇画)から脚本を書く楽しみ、難しさはどんなところにありましたか? この作品は、書いているときと撮っているとき、どちらが楽しかったですか?
魅力的な人物やエピソードやセリフが純粋に大好きなので、そんな好きなものたちが執筆中いつもそばにいるという感覚があり心強かったです。ただエピソードも人物も多いので、どうやって2時間ほどの映画に収めるかの組み立てには相当時間がかかりました。原作が好きすぎてある意味自己同一化してしまい、客観的になれない部分もあったかと思います。そこはプロデューサーの意見を聞いたりして冷静になるようにしました。
書くときは妄想が頭の中を大きく占めていますが、撮ることは目の前の現実にどう向き合うかの連続なので、楽しいというより必死です。
― 主演の原田琥之佑さんの自然な演技がこの作品の優しいムードを作っています。原田さんを選んだ理由やエピソードを教えてください。
原田君はいい意味で力が抜けていて、普段の自分のままでオーディションにも現場にもいられる人です。芝居でも普通の会話でもちゃん相手をよく見てリアクションでき、言われたこと以上の何かを生み出そうとするチャレンジングさもありました。細かく役について話し合ったわけではないですが、毎回脚本に書かれてないアドリブ芝居をしてくれて、その表現で原田君の解釈がわかったし、こちらはそのアドリブがありかなしか判断すればいいだけなので楽でした。奏介は物語の中で大きく変化するわけでもなく演じる上で拠り所がない役で難しいんです。原田君の試行錯誤の結果、気負わない自然体の奏介が生まれたんだと思います。
ラストの絵を描くシーンを撮るとき、映画のラストだし奏介になにか劇的な表情をしてもらったほうがいいのか悩んでいました。でも原田君はあくまで普通で、「人って何かに集中してるときってこういう顔だよな」と思わずこちらが納得してしまうような無意識の表情をしていて、すごいなと思いました。

芸術は生きることと切り離せないもの
― アートで移住を呼び込む町で、実は子どもたちだけが損得なしにアートに没頭しているというシュールさに「人生にとってアートとは何か?」を考えさせられます。結局、「何をして芸術家と言えるのか」という問いの答え、監督ご自身はどう思いますか?
芸術家なのかそうでないのか、という考え方はしないのでよくわかりませんが、芸術ってなんなのかとはたまに考えます。やっぱり長年生きていても自分のことがよくわかりませんし、不安定で心細いままです。そういう不確実な感覚を、(絵を描くでも文を書くでも料理するでも何でもいいですが)具体的な技術を使いながら自分のやり方で組み立てていき、かたち作ることで、ぼんやりした自分を自覚しようとしているような気がします。芸術は崇高なものと捉えられがちですが、生きることと切り離せないものだと思います。そういう意味では誰しも芸術家なんでしょうか。
― 作品を貫く独特の空気感は、ロケ地である小豆島によるところが大きいと思います。この地を選んだ経緯を教えてください。
原作だと舞台の「街」は海などの自然だけでなく、人工的に作られた風景の印象も強いんです。小豆島は豊かな自然だけが際立っているわけでもなく、ショッピングモールとかもあって、世俗的な部分もあります。それが原作の世界観に通ずる気がしました。また、小豆島のある瀬戸内海で芸術祭が三年に一度行われていることもあり、アート作品が島の至る所にあって、脚本の設定とよく似ていました。小豆島では過去にいろんな映画が撮られているし映画の誘致活動も熱心で、最終的には地元の人の力に引き寄せられたところもあります。

― 荘子it/Dos Monosさんの音楽がとても独創的で効果的でした。起用されたきっかけや理由を教えてください。
もともとDos Monosのファンでした。数年前、「映画でも音楽でもいいからパンチある作品つくる若い人、いないかな」と探していたときに、Dos Monosに出会い「面白い!」と思いました。生ぬるくなくてゴリっとしていてライブも刺激的で。映画音楽を荘子itさんに頼んだら、どんなものができるんだろうと興味が湧きました。私は音楽に詳しくないし、劇伴のイメージを音楽家に伝えるとき、現代音楽の方向性の抽象的な音楽を仮当てすることが多いのですが、荘子itさんならそんな私のパターン化された音楽イメージを刷新してくれるんじゃないかと期待してお願いしました。
― これからどのようなテーマの作品を手掛けていきたいですか?
まず最初にテーマありきではなく、自分なりの視点で人間という複雑で矛盾に満ちた生き物を描いていきたいです。それに挑むことで、初めてテーマが浮かび上がってくるのだと思います。
― シカゴに対するイメージと、現地訪問で楽しみにしていることを教えてください。
シカゴは華やかで音楽のイメージが強いです。とにかく街を練り歩いてそこに生きている人の空気を少しでも感じたいです。初めて訪ねる街で、観客の皆さんがこの映画がどう受け取ってくれるのか、そんな緊張感を大いに楽しみたいと思います。

横浜聡子(よこはま・さとこ)
1978年、青森県生まれ。横浜の大学を卒業後、東京で1年ほどOLをし、2002年に第6期映画美学校フィクションコース初等科に入学。2004年、同高等科卒業。卒業制作の短編「ちえみちゃんとこっくんぱっちょ」が2006年第2回CO2オープンコンペ部門最優秀賞受賞。CO2からの助成金を元に長編1作目となる「ジャーマン+雨」を自主制作。翌2007年、同作で第3回CO2シネアスト大阪市長賞を受賞。自主制作映画としては異例の全国劇場公開となる。2008年、商業映画デビュー作「ウルトラミラクルラブストーリー」(出演:松山ケンイチ、麻生久美子)を監督、2009年6月に全国公開。同年のトロント国際映画祭、バンクーバー国際映画祭他、多くの海外映画祭にて上映された。また同作にて主演の松山ケンイチが第64回毎日映画コンクール男優主演賞、第24回高崎映画祭最優秀主演男優賞を受賞、作品が第19回TAMA CINEMA FORUM最優秀作品賞を受賞した。2016年「俳優 亀岡拓次」(安田顕、麻生久美子)が公開。2021年に全編青森にて制作した「いとみち」では同県出身の駒井蓮をヒロインに迎え、第16回大阪アジアン映画祭にて観客賞とグランプリをダブル受賞。第13回TAMA映画賞特別賞、第36回山路ふみ子文化賞を受賞するなど、多数の賞を受賞した。近作にはDisney+ オリジナルドラマシリーズ「季節のない街」(ep3,7,8)がある。日常にたゆたう【名もなき感覚】を捉える鋭い洞察力とオリジナリティ溢れるユニークな表現は中毒性が高く、業界内外やクリエイターに熱狂的なファンを擁す。
Born in 1978. Yokohama graduated The Film School of Tokyo in 2004. Her graduation short film, Chiemi and Kokkunpatcho (2006), won a grant, and she independently produced her first feature film, German plus Rain (2007), which was released theatrically nationwide.In 2009, she directed her first commercial film, Bare Essence of Life. The film was featured at several international film festivals, including the Toronto and Vancouver International Film Festival. The 2021 film ITO won several domestic awards. She is known for her talent in capturing intangible elements of everyday life with unique and expressive storytelling.







コメント