「“家族を辞めたい人たちへ”―辞められない「家族」っていったいなんだったっけ、と考えるきっかけに」(映画『架空の犬と噓をつく猫』森ガキ侑大監督インタビュー)
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3月20日からシカゴ市内で始まる「第20回アジアン・ポップアップ・シネマ」において、日本映画の先陣を切って『架空の犬と嘘をつく猫』(英語タイトル『The Imaginary Dog and The Lying Cat』)が3月21日、アメリカ初公開される。 原作は、『川のほとりに立つ者は』で本屋大賞にノミネートされた寺地はるな氏の同名小説で、ある家族の30年にわたる「嘘と愛」の物語。監督は『愛に乱暴』で世界の映画祭を沸かせた森ガキ侑大(ゆきひろ)氏。キャストは主演の高杉真宙に加え、伊藤万理華、深川麻衣(共に元・乃木坂46)、向里祐香、安田顕、余貴美子、柄本明ら実力派俳優たちが集結した。

『架空の犬と嘘をつく猫』
● あらすじ
弟の死が受け入れられない母のため、弟のフリをして母に手紙を書き続ける、小学生の山吹。空想の世界に生きる母、愛人の元に逃げる父、夢を語ってばかりの適当な祖父と“嘘”を扱い仕事をする祖母、そして“嘘と嘘つきが嫌い”な姉。一つ屋根の下に住んでいながらもバラバラに生きている家族の中で山吹は今日も嘘をつきながら成長していく―。(『架空の犬と嘘をつく猫』公式Webサイトより)
● APUC主催者による推評
「素晴らしいキャスティングによる、複数世代にわたる問題を描いた壮大な家族ドラマだ」
― Sophia Wong Boccio
● 上映情報
森ガキ侑大監督のゲスト登壇によるトークライブがあります!
Date: Saturday, March 21
Time: 3:00 PM (Doors open at 2:30 PM)
Location: AMC NEWCITY 14

『架空の犬と嘘をつく猫』:森ガキ侑大監督インタビュー
― ゆったりとした時間の流れが印象的な映画です。今、この作品を撮られた意味、意図をお聞かせください。
今の社会は、ともすると生産的、効率的なことばかりを追い求めてしまいがちです。AIですぐに答えが出てしまう便利さのなかで、その過程にある一見無駄なことにこそ価値があるのでは、と強く感じていました。現在に対するアンチテーゼを表現してみたいという気持ちもあり、プロデューサーからオファーをいただいた時に、今だからこそこの作品を撮ってたくさんの方に届けたいと思いました。
― 家族の30年を飽きさせずに描く手法は容易ではなかったと思います。
30年の時間の流れを描こうとするとき、現代から始まって子供時代の「回想シーン」を盛り込む手法が主流です。でもそれは絶対にしたくありませんでした。映画を観ている人が家族と一緒に物語を紡ぎ、淡々と時を過ごしながら成長する過程を体感していくという流れにしたかった。そこで、映画の撮影も「順撮り」にして出演者とも一緒に時間の流れを感じてもらいながら作りました。また、キャラクターの成長とともに移りゆく四季の描写を丁寧に撮っていきました。
― 「家族を辞めたい人たちへ」という、ドキッとするキャッチコピーに込めた思いは?
宣伝部からこのフレーズの提案をいただいたとき、「家族って辞められるんだ」とはっとしたんです。もちろん、家族は選べないし辞められません。切っても切り離せない“共同体”であり、誰かの幸せも不幸も家族全員にのしかかってくるという現実から逃れられない。そんな不思議な「家族」っていったいなんだったっけ?と考えてもらえるきっかけになれば、という思いが込められています。

映画って人を救えるんだ。
― この映画は1988年から始まる30年の家族の時間を描いています。日本では「失われた30年」と呼ばれていますが、監督ご自身にはどんな30年でしたか?
僕の家族は、双子の弟と兄、設計士の父、専業主婦の母の5人です。バブル崩壊の頃、僕は5歳くらいで、なんとなく生活が苦しそうだなというのは感じつつもそれが社会的要因だと理解したのはずいぶん後になってからでした。子どもの頃は自分の部屋もなく、一人になりたいときは自転車で海に行って音楽を聴いていました。陸上選手だった高校時代は将来への不安だらけ。結局陸上を諦めてからは、学校からの帰宅中にレンタルビデオ屋に入りびたっていましたが、そのとき出会った映画『ショーシャンクの空に』が人生を変えてくれました。映画って人を救えるんだ、違う世界に連れて行ってあげられる映画監督って素敵だな、と興味を持ち、卒業後に広告業界から映画業界に入ろう、と決めました。いろんな時代を乗り越えてきた経験が、今につながっています。
― 原作は同名の小説ですが、映画化にあたってはどういうところが難しかったですか。
そのまま映画化すると長時間になってしまうので、2時間程度にまとめていくのがまず大変でした。今回は特にどのキャラクターを削り、ふくらませるかを考えながら脚本を作っていく過程が一番難しかったです。回想シーンは入れないというこだわりがあったので、削る作業に苦労しましたね。
― 主役の高杉さんをはじめ、映画の中で長い時間を占めた子供時代のキャストはとても説得力がありましたね。
主役の山吹には、謙虚で人間味のある高杉くんがぴったりで、彼しかいない、と僕とプロテューサーでオファーしました。子役の配役ではまず俳優さんの子ども時代の写真をもとに、似ている人を探しました。幸いにもすごく似ている子が見つかったので、それならば主人公の子供時代をしっかり描こうと決めました。姉・紅(ベニ)の子役は、小学生時代は見つかりましたが中学生以降がどうしても見つからなかったので、メイクさんにその子を大人っぽく作ってもらったら、すっかり高校生になっちゃいました(笑)。彼女には東京で背伸びした高校生を体験させ、役作りをしてもらいました。
逃げたくても逃げられない、それこそ家族

― この作品で一番気に入っているのはどのシーンですか?
最後のバスのシーンですね。この絵でこの映画の一番言いたいことを伝えられたのかなと思っています。気持ちがバラバラな家族が同じ空間に座って聞きたくもない家族の悩みを聞いてしまう。逃げたくても逃げられない、それこそ家族だよな、と。実はこのシーンでは、役者さんに「シリアスな会話をしている中でも、固くならずにそれぞれが自由に動いてください」とだけ声をかけていました。紅役の向里祐香さんはあの場面で靴を脱いで石ころを出していましたが、実はリハのときに足が痛くて靴を脱いだり履いたりしていたのが面白かったので、それをお願いしたら彼女が演技を膨らませてくれて、とても印象深いシーンになりました。

― 2025年11月の「タリン・ブラックナイト映画祭(エストニア)」でワールドプレミア上映が行われ、最優秀撮影賞(Best Cinematography)を受賞しました。現地ではどのような評価だったのでしょうか?
「小津(安二郎」監督や成瀬(巳喜男」監督のような、アジアの古典映画を観るようだった」「今どきなかなか見ることのなかったアジア映画だ」と言っていただきました。昨今はハリウッドの影響もあり、引き絵が少なく顔のアップでドラマっぽく撮る表現が主流になっているなかで、日本映画の古典的手法を感じさせる静かな情景描写が評価いただけたのだと思います。今回シカゴに呼んでいただけたのも、決して派手ではないけれど日本ならではの四季の美や空気を評価していただけたのかな、とうれしく思っています。
― 海外で上映したときの、日本の観客との反応の違いなどがあれば教えてください。
海外での質問で多かったのが、「なんでこの映画を(東京のような)都会じゃないところで作ったのか?」でした。僕自身、田舎で育ち、自然豊かな四季の移ろいの中で成長していったので、田舎での空気感や独特の逃げ場のなさなども知っていたし、逆にこの作品は都会では撮れなかったというようなお話をしました。日本の田舎に海外の方は興味を持っているのかな、と感じましたね。
ボディブローのようにじわじわくる映画
― 日本で公開(2026年1月)されてからの反響はいかがでしたか?
うれしいことに、「人生の中でベスト5に入る映画」とか「心の中に残る映画だ」というようなコメントや評価をたくさんいただきました。また「ボディブローのようにじわじわくる映画」だとも言われました。観る人によって「家族」のとらえ方や感情移入する人物も違いますから、あとから効いてくるんでしょうね。感情のツボを誘導されることなく、自分たちのペースで感じ取れる映画だからかもしれません。

― 今回のシカゴでの上映はアメリカプレミアになります。ご自身のアメリカ体験は?
実はちゃんと足を踏み入れたことがないんですよ。僕は広島出身で被爆の教育を受けているので、アメリカに行くときは戦争をテーマの映画を携えて行きたいと思っていて、それが理由のひとつです。映画の構想自体はあるのですが、今はだめですね。戦争が現実になってしまっているので、共感してもらえないし響かないのではと思います。
― 最後にアメリカプレミア上映を楽しみにしているシカゴの観客の皆様に一言お願いします。
自分の映画をアメリカの方たちと一緒に観られるのをとても楽しみにしています。この映画をとおして、国や人種を超えて「想い」を共有できることは何よりうれしく、こんなに尊い時間はないと思っています。


森ガキ侑大(もりがき・ゆきひろ)
1982年生まれ。大学在学中にドキュメンタリー映像制作を始める。卒業後、CMプロダクションに入社し、CMディレクターとして活動。17年に独立してクリエイター集団「クジラ」を創設し、以来、Softbank、JRA、資生堂など多数のCMの演出を手掛ける。同年、長編映画デビュー作『おじいちゃん、死んじゃったって。』がヨコハマ映画祭・森田芳光メモリアル新人監督賞を受賞。世界映画祭にて多数ノミネートを果たす。近年の作品では『愛に乱暴』(24)にて第58回カルロヴィバリ国際映画祭にてクリスタルグローブコンペティションにて正式出品。
Yukihiro Morigaki was Born in 1983 in Hiroshima Prefecture, Japan. He started his career as a TV commercial and documentary film director. He directed TV commercials for major clients in Japan, and in 2016, one of the work was celebrated in the Cannes Lions International Creative Festival as Bronze prize in Pharma Award. Since 2017, he started to focus on directing short films, feature films, and serial dramas. His first feature film "Goodbye, Grandpa!" was distributed in several countries, and awarded in domestic and international film festivals. The serial drama "Behind the Door" (aka The House on the Slope) which he has directed in 2019 was stremed in 27 countries by Arte and HBO, and highly evaluated especially in Europe. He is the founder of the creators group Kujira, which manages Chie Hayakawa, the film directer as a member.
『架空の犬と噓をつく猫』上映情報
Date: Saturday, March 21
Time: 3:00 PM (Doors open at 2:30 PM)
Location: AMC NEWCITY 14