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絵画とともに美しく羽ばたくミルウォーキー美術館 Milwaukee Art Museum

  • 執筆者の写真: Chicago Samurai
    Chicago Samurai
  • 2019年8月4日
  • 読了時間: 5分

更新日:2019年8月5日


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Photo Credit: Visit Milwaukee

 シカゴから150キロ北上したウィスコンシン州の最大都市ミルウォーキーといえば、世界三大ビールの生産地とハーレーダビットソンの本社があることで有名であり、クールな動物園として人気のミルウォーキー動物園もある。そして、ミシガン湖沿いにこの鳥の翼を広げたかのような美しいエレガントなスタイルの建築物が人々を魅了する。市民が誇る、いやアメリカが誇るミルウォーキー美術館だ。


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Photo Credit: John Karpinsky

 世界的なスペインの建築家サンディアゴ・カラトヴによって2001年新館として作られた。ガラスのパビリオンを包む翼のような部分が時間ごとに動いて姿を変え、来館者を楽しませる。(※現在工事中のため2019年9月まで翼は起動しない)

 ロビーはガラス張りで、ブルーのミシガン湖と中西部特有の刻一刻と姿を変えるミステリアスな雲を仰ぎ見る。その空に向かって白鳥が羽ばたくかのような、あるいは湖に漕ぎ出す帆船のような白い建物の中に、3万1000点ものヨーロッパ、アメリカ中心の作品を収蔵しているのだ。

 アトランダムに回っても、様々な時代からの秀逸な作品に巡り会える。驚いたことに、各テーマごとの部屋に警備員がいないため、作品のかなり近くまで接近できる。心無い人が作品を触って傷付けないかこちらが心配するほど、のんびりしている印象を受ける。土曜日に行ったが、全く混んでいないので、一つ一つの作品を十分堪能できる。アメリカ三大美術館の一つと言われる由緒あるシカゴ美術館とは趣が違うが、建物自体が他に例を見ないような美しい芸術作品なので、ここまで足を伸ばす価値はある。

限られた時間の中で観て気に入った作品をいくつか紹介しよう。


 美術館の重要なコレクションの一つ、ブラッドリーコレクション(The Bradley Collection)は、ハリー・リンデ・ペッグ・ブラッドリー(Harry Lynde “Peg” Bradley)氏が 1950年より20世紀の作品を30年以上にわたって収集した作品群だ。エコール・ド・パリ、ドイツ表現主義、アメリカン・モダニズム、抽象表現主義、ポップアート、ミニマリズムなど多岐の時代にわたって作品を購入している。彼女の夫、ハリー・リンデ・ブラッドリー(Harry Lynde Bradley)氏は主要な電子制御メーカーを設立し、夫婦は長年ミルウォーキーに住んで、その貴重なコレクションをミルウォーキー美術館に寄付した。(美術館のコレクションの冒頭キャプションより)


コレクションの最初に目に入ってくる作品は、ピカソと並ぶキュビズムの創始者ジョルジュ・ブラック(Georges Braque)の「In Drydock,1942」で、これは夫人が一番最初に購入した。

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パブロ・ピカソ (Pablo Picasso) 「The Cock of Liberation, 1944」

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(上左)カンディンスキー (Wassily Kandinsky)

(上右)ジェコメッティ


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左手は、シャガール (Marc Chagall)

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ビビッドなスケールの大きい筆づかいが強調されたポール・ジェンキンス(Paul Jenkins) の「Phenomena Blue Held Over, 1975」

デンマークのオルファー・エリアソン(Olafur Eliasson)の「Rainbow bridge, 2017」というインスタレーションに目を奪われる。窓ガラスを通して淡いブルーの色どりの湖の景色をバックに、その窓からの光がガラスの球体をカラフルにリズミカルに照らし出す。

 来年3月から東京都現代美術館で「エコロジー」をテーマにエリアソンの個展が開催予定で、世界的に注目を集めるデンマーク出身のアイスランド人のアーティストである。https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/olafur-eliasson


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オルファー・エリアソン(Olafur Eliasson)の「Rainbow bridge, 2017」

アメリカを代表する女流作家でウイスコンシン州出身のジョージア・オキーフ(Georgia O’Keefe)のコーナーには彼女の代表的なテーマの一つである花の作品群。「Popple, 1950」は、立体的な桃色の花が観るものを妖しげに惑わす。

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ジョージア・オキーフ(Georgia O’Keefe)「Popple, 1950」

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アメリカ抽象表現主義のマーク・ロスコ(Mark Rothko)の代表的な作品

特に目を引いたのは、ハドソン・リバー派を中心とした19世紀半ば以降のアメリカの風景画の作品。アメリカのダイナミックな山と川の風景を凄まじい描写力で捉えた技巧派の画家たち。光と陰の織りなす移ろいをしんとした空間に閉じ込め、朝夕の穏やかな空気感を醸し出す。この画家たちの自然への畏敬の念を強く感じさせる19世紀アメリカへの旅は、どの部屋より長く感じられる。


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ヘンリー・ヴィアンデン(Henry Vianden)「Landscape with Mountains and River, 1874/82」 ウイスコンシン州最初の風景画家であり、絵画の教師で弟子も多かった。



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トーマス・モラン(Thomas Moran)「Three Mile Harber, Long Island, 1889」

1300年代から1900年代のヨーロッパ絵画のコレクションも目を見張るものが多い。美術館が1958年に国際的なオークションで購入し、話題を呼んだスペインのフランシスコ・デ・スルバラン(Francisco de Zurbaran)の 「Saint Francis of Assisi in His Tomb, 1960/34」は、シカゴ美術館の彼の代表作「The Crucifixion, 1627」と同じく重厚な雰囲気に包まれ、ぜひ観比べて欲しいバロック作品の一つ。

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フランシスコ・デ・スルバラン(Francisco de Zurbaran)の 「Saint Francis of Assisi in His Tomb

ライオンが海辺の夕日を見ているファンタジックで不思議な世界に引き込まれるジーン・レオン・ジェローム(Jean-Leon Gerome)の「The Two Jajesties (Les Deux Majestes), 1883」もおそらく当美術館の人気の作品の一つであろう。

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ジーン・レオン・ジェローム(Jean-Leon Gerome)「The Two Jajesties (Les Deux Majestes), 1883」

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日本人に人気の印象派のモネやカイユボット、ドガやロダンの作品コーナーで一息つく。

印象に残ったヨーロッパ絵画の作品の一つは、1800年代フランスから始まった風景画復活の中の完成度の高い作品、フランスのフェディナンド・ジーン・モンチャブロン(Ferdinand Jean Monchablon)の「The Little River, 1889」。バルビゾン派が描いた風景をそのまま写真に閉じ込めたような感じで、その風景があたかも窓から見えるかのように写実的な筆致で描かれている。観ているとこちらの気持ちも隅々まで澄んでいくかのようだ。



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フェディナンド・ジーン・モンチャブロン(Ferdinand Jean Monchablon)の「The Little River, 1889」

美術館の廊下も鳥の羽の骨組をカーブしたようないくつもの白い柱で覆われいて、その先端に湖を前にしたガラス張りの気品あるレストランが設置されている。豪華な客船で洋行するような気分が味わえそうだ。


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アメリカ現代美術作品のコーナーでは、お馴染みのアンディ・ウォーホール(Andy Warhol)やロイ・リキテンシュタイン(Roy Lichtensten)などのわかりやすい作品が設置され、気軽に楽しめる空間になっている。

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突然、正面に構える「Nany, 1968」という巨大なモノクロの女性像が鬼気迫ってくる。スーパーリアリズムの作家チャック・クローズ(Chuck Close)の作品。とその左手にいるのが、てっきり警備員の男性かと思いきや、デュアン・ハンソン(Duane Hanson)の「Janitor, 1973」という立体作品だった。


 シカゴから車で2時間弱で行ける大都市ミルウォーキーの穏やかなさざ波の起こるミシガン湖のほとりに、水鳥が翼を休めたかのような(現在の翼が始動しない形)気品のある外観のもとで、ゆったりと一流のアート作品に浸る一日は至福の時であろう。




Milwaukee Art Museum: https://mam.org/

開館時間:10:00-17:00 木曜は20:00まで

住所:700 N. Art Museum Drive, Milwaukee, WI 53202



(文責・写真/馬場 邦子)

 
 
 

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