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  • 執筆者の写真Chicago Samurai

映画『パーフェクト・レボリューション』アメリカ・プレミア上映。松本准平監督インタビュー。

更新日:2018年4月17日


「パーフェクト・レボリューション」photo credit : Tohokushinsha Film Corporation  

3月に開幕した「アジアン・ポップアップシネマ・シーズン6」で”ソフィアのチョイス”日本作品第2弾に選ばれたのは、『パーフェクト・レボリューション』。心と体にそれぞれ障害をもつふたりが、”完全なる革命”を起こそうと立ち上がるラブコメディー。キャッチコピーは「無謀だなんて、誰が決めた?」。障害者の性を訴えつづける活動家・熊篠慶彦さんの実話にもとづく物語を、 人間の内面に深く切り込む作風で知られる松本准平監督が自ら脚本を書き映画化した。


この作品を選んだ理由を、アジアン・ポップアップシネマ創業者のソフィアさんはこう語る。

ソフィア氏と松本准平監督

「ほとんどの観客は英語字幕で映画をご覧になるので、”誤訳による誤解”を生まないような作品を選ぶようにしています。そのためには俳優の優れた演技も大きな要素です。(先に上映された)『彼らが本気で編むときは、』も『パーフェクト・レボリューション』も、人権について真摯に描いた物語で、これは普遍的でかつ共有・リスペクトされるべきテーマ。クマ役のリリー・フランキーさん、ミツ役の清野菜名さんはともに、それぞれのキャラクターを最も信頼のおける演技で演じきったと思っています」


松本監督も今回のシカゴ上映に先立ってシカゴ入り。季節外れの雪に見舞われたその翌日、シカゴ市内でお話を伺った。


Q:この映画を撮るきっかけを教えてください。


実話をもとにした映画なんですが、クマのモデルとなった熊篠さんと知人の紹介で知り合いました。彼が障害者の映画を撮りたいと言っていて、僕もちょうど映画の題材を探していて。これをテーマにすると重たくて倫理観ばっかり強い映画になっちゃうんでできないかなと思いましたが、彼の生き方や姿を見ていたら、まさしくこのまま自然にやれればエンターテイメントとして面白いものになるかな、と思ったのがきっかけでしたね。


アメリカ映画を目指す

Q:映画の公式サイトで監督は「アメリカ映画を目指したかった」とおっしゃってますが、その「アメリカ映画っぽさ」とはどういうイメージですか?


こういう難しい題材や問題に対して、映画のもっているパワーでくるんじゃうことができるフォーマットがアメリカ映画だなと思っています。日本で扱うと題材に負けちゃうし、ヨーロッパ映画だとアートっぽくなる。けれど、アメリカ映画だとさらりとやってのける、しかもエンターテイメントとして楽しく見れるものにしちゃえる。そういうイメージがあります。まさしくこの映画もそういうものにしたいなと思っていました。題材が強烈に際立つというのではなく、物語として骨格がしっかりしていて映画のフォーマットとしてウェルダンなものにしたいなと。主人公たちが障害をもっていることでこの問題に関して広がりを持たせていて、骨格からあふれでているもので見る人が何かを感じ取ってくれる、だけど映画としては一本筋がとおっていて成立すればいいなと思っていました。


Q:おっしゃるように日本だと扱いづらい題材だと思いますが、エンターテイメントとしてのバランスをどのようにとっていったのですか?


もし、障害のことをよく知っていたとしても別の方が持ちかけてきた企画だったらやらなかったと思います。(熊篠さんという)当事者が発信していることでもあり、常にチェックはしてもらっていたので僕は深く考えずやるようにしていました。


Q:実話だと知りつつも、どこまでが本当にあった話なのかがわからなくなりました。


実際にはふたりは別れちゃったんです。そこから僕の創作がかなり入ってきますけど、人物としてのふたりはまさしく映画のまんまです。映画を見た方が、「出会いのシーンがあまりにも作劇的すぎる。男目線すぎる」っていうんですけれど、まさにこれが本当に起こったことなんですよ。事実は小説よりも奇なり、ですね(笑)



「生きるに値する世界」を描こう

Q:監督ご自身、ちょうどお子さんが生まれたタイミングが重なった(脚本の初校が完成する3か月前に誕生)ことが、この映画を撮るうえで影響を与えましたか?


かなり影響されていますね。ありきたりすぎるんですけど、「人間のポジティブな面をとらえよう」という風に考え直しましたね。僕はキリスト教徒で、今まで「人間の罪」を追い求めたいという気持ちがとても強くて。でも実際に生まれてくる命を見ていると、人間というものを信じたくなりますし、この世界が”生きるに値する”ということを描きたいなというふうになっちゃうもんですね。やっぱり父親になると(照れ笑い)。現実の複雑な問題を超えていきたい、この映画にうたわれている「不可能を可能にする」というメッセージを込めたいと思ったのは、絶対子供の影響がありますね。



「パーフェクト・レボリューション」photo credit : Tohokushinsha Film Corporation  

Q:主人公のクマは、過去に”治療”のため股関節に大量の放射線を浴びてしまう、そのことがストーリーのなかで重い影をさしていますね。


あれは実際に熊篠さんご本人が過去に受けた治療のはなしです。当時は障害者が軽く扱われていて、医療する側が何も考えていなかった。「障害者だから(放射線)当てちゃえよ」みたいなことが実際に行われていた。そのことを、この映画が描かれている背景として少しだけでも言及しておいたほうがいいなと思いました。今でも障害者への強制的な不妊治療など差別的な問題は依然としてありますね。子供を持つ身として、生きている人間の経済性や合理性で命を判断するというのはとても愚かなことだなと思います。


Q:監督ご自身は、映画の前と後で障害を持つ方々に対する考え方や接し方は変わりましたか?


普通になった、というかんじです。今までは、大変なんだろうなぁとか、想像もできないから接するときに注意しないといけない、という感じだったんですが、この作品を通して熊篠さんと出会い、また障害を持っている方々と会う機会が増えてからは普通に接するようになり力まないようになりました。もちろんみなさんが熊篠さんのような方ばかりではないのですが、映画を通して少しでも偏見の目がなくなるといいなと思っています。


Q:アメリカ社会では障害者を”普通に”扱うことが当たり前なので、映画の中で障害者が冷たく扱われるシーンは衝撃的かもしれませんね。


僕も今回、アメリカに来て他人に対する距離の近さを感じましたね。見知らぬ同士話をするなんてこと日本ではまずおこらないし、それよりもさらにパーセンテージが高くなって「無関心」なんです。関心があっても大きい壁を作ったほうがいい、それが日本人の感性だと思うんですよ。めんどうくさいというより、恥ずかしい。人に関心を持たないようにする社会なのかもしれませんね。僕も、たとえば電車で席を譲りたくても立ち上がって話しかける勇気が出ない、タイミングがよくわからない。きっとたぶん僕だけじゃないと思います。


ちょっとしたシーンに込められたメッセージ

Q:映画の中にでてくる宗教に誘うおばさんや、TV局の取材なども実話ですか?


どちらも実際に熊さんが経験した実話です。TV局の取材は全くあのとおりではないですが、ああいうことはしょっちゅうあると。メディアの意図通りにされてしまうというのは障害者に限らず日本のメディアだとよくおこることだと思うんです。僕はああいうのが好きじゃないので、もちろん日本社会に対する風刺もこめています。今回の映画はエンターテイメントにしたいと思ったので、そういう脇役のポジションはバサッと斬ろうとしたのでキャラクターに思い切り振っているんですよ。そのカリカチュール的な振り方がより日本のメンタリティーを表現していると思います。


「パーフェクト・レボリューション」photo credit : Tohokushinsha Film Corporation  

Q:ミツ役の清野菜名 さんを決めたのは監督だそうですね?


そうなんです。実際にミツのモデルになった方は、映画の設定とは違った複雑で悲劇的な過去をもっていて、笑顔がとても印象的でポジティブで面白い方なんですよ。だから過去を背負わせたうえでミツのようなエネルギーを発してくれる方を探しました。僕は全く個人的に清野さんを知っていたわけじゃないんですが、過去のフィルムや写真をみて彼女にオファーをしたらまさしくそういう方でした。


お笑い芸人になりたかった

Q:東大の建築学科(大学院卒)からなぜ映画監督の道に?


本当はお笑い芸人になりたかったんです。でもその夢がついえて、その前に大学の専攻を選ばなければいけなかったんでクリエイティブな建築のことを勉強することにしました。でも建築も自分には向いていないと思ったし、お笑いでも競争には勝てないなと(笑)。たまたま友達に誘われて映画を撮ってみたら、現場でディレクションしたり脚本を書いたりするのが一番向いていそうだと感じたんです。


Q:これまでの人間の罪や心の奥底に迫るシリアスな作品から比べて、今回は作風が変わりましたが、心境の変化は?


一番大きかったのは子供が生まれたことですね。撮ってる間は面白かったです。キャスティングもベストでしたしスタッフともいい協力関係を築けたし。実際の撮影時間は3週間。構想の期間は長かったですけれどそれはある意味、熊篠さんと友情をはぐくむ時間でした。ディスカッションを重ねて、視点が定まってからは早かったです。


Q:次の映画の構想は?


いろいろやりたいことがあるんです。今回、批評家にではなくお客さんに向けて作ったという感触が強くありました。でももっとお客さんを圧倒させたい。お金を払って映画を見ているお客さんに、もっと圧倒的な経験、忘れがたい特別な経験を与えられるようなものにしたいなと。そのためにはテーマとしては「罪」とか、もう少し前とは違う形で掘り下げ行く必要があると感じていています。この作品を通して得た多くのものを総動員してもう一回オリジナルなものを、自分の中にあるもの、キリスト教的なテーマを大胆に掘り進めたもの、それとエンターテイメントをブレンドしたものをやってみたい。そのためには自分の中にあるものをさらけ出す必要があると思います。


Q:やはりそこ(人間の罪)に戻ってきますか?


罪のことは描かざるを得ないと思います。本当の希望や救いを描きたいなと強く思っていますし、挑戦したいと思っていますね。


Q:好きな映画監督や作品を教えてください。


一番好きな映画は、『Dancer in the dark』。今好きなのは ( 『レヴェナント: 蘇えりし者』の)アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ(Alejandro González Iñárritu )監督。僕の目には、彼はまさに罪や救いを追求しているように映っていて、とても大好きな監督です。



■以下、4月12日にシカゴ市内で行われた上映の様子。

(Cooperation: Hiroko Saito 取材協力:斉藤博子、Photo credits :Anna Munzesheimer )


観客からの質問に答える、松本准平監督

『パーフェクト・レボリューション』の上映には、多くの映画ファン、業界関係者、そして福祉関係者がつめかけた。劇中、ミツがレストランで熱心にキング牧師について語るところは受けており、二人が酔っぱらいに絡まれる場面や、法事で親戚に諭される場面では、観衆の緊張が伝わるくらい会場が静まりかえっていた。


上映後の質疑応答では、松本監督が観客からの質問に一つひとつ丁寧に答えた。


あるアジア系アメリカ人男性の質問。

「父親が悪事を働いたから息子が障害を持って生まれた、と法事で親戚が言うシーンに驚きました。アメリカでは障害児が生まれると、ありのままに受け入れます。日本では、どのように捉えられているのですか?」


松本監督:現在でも日本の田舎では親の因果が子に報い、障害児が生まれた、と考える地方がありますが、都会や若い世代では、そのような意見は少なくなっています。


Photo credits Anna Munzesheimer

自身も身体に障害があるアメリカ人女性の質問。

「一昨年、日本の施設で多くの入居者が職員に殺された事件(注:相模原障害者施設殺傷事件のこと)に衝撃を受けた。日本の社会では障害者はどのような立場なのでしょうか」


松本監督:日本は偽善的なところがあり、障害者に対して何も言わないけれど、内心、低く見ている人がいます。その極端なケースが、あの事件だったと思います。


さらに同女性から。

「この映画では身体に障害を持つ男性が心に障害を持つ女性と結ばれますが、これは障害者への偏見とステレオタイプを助長することになるのではないですか?」


松本監督:「この映画は実在する人物をモデルにしており、二人とも強烈な個性を持っていました。障害そのものよりも、それを越えるラブストーリーと受け取ってほしいと思っています。」


終了後は記念写真やサインを求める人たちに松本監督が丁寧に対応、『パーフェクト・レボリューション』を母国で紹介したい、というイタリアからのバイヤーの姿もあった。



■取材後記:アメリカでは、メディアや観客から日本とは全く違う内容の質問を受けて刺激になったと、監督は後日語ってくれた。3歳になるお子さんのために恐竜のおもちゃやおみやげを買いに取材の合間をぬって博物館に走った”普通のお父さん”。人の内面に深く入り込む、”日本のイニャリトゥ監督”の、次回オリジナル作が楽しみだ。




■ 松本准平監督プロフィール

1984年、長崎県生まれ。東京大学工学部建築学科卒業、同大学院建築学専攻修了。吉本総合芸能学院(NSC)東京校12期生。カトリックの家庭に生まれ、幼少期からキリスト教の影響を強く受ける。NPO法人を設立し映像製作を開始。2012年、劇場監督デビュー作となる『まだ、人間』を発表。続いて14年、作家・中村文則の小説を原作とした『最後の命』を監督。同作でNYチェルシー映画祭・最優秀脚本賞を受賞。16年には第40回香港国際映画祭で審査員を務めた。



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